Day279-2 まさかの展開…

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Day279 2014.8.14 ジュネーブ14日目〜ツェルマット


ツェルマットマッターホルンという山の麓にある街。

四方をアルプスに囲まれ、標高の高い場所に位置するため、多くの登山客やスキーヤーが集まる。

8月の日中でも1枚上に何か羽織りたくなるような気温である。

ギターを持って、宿を出るとそのマッターホルンがこちらを見下ろしていた。


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多くの登山家が、あのてっぺんを目指す。

しかし、それは簡単なコトでは無い。

マッターホルンは美しい見た目とは裏腹に厳しい側面を持っている。

多くの登山家があの頂きを踏もうと命を賭けて挑戦するが、その夢は儚く散っていってしまうコトが多かったようだ。

そんな登山家たちのお墓がココ、ツェルマットにはいくつもある。


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静かにいつまでも、あの夢見た頂きに思いを馳せながら眠っているのだろうか。


夢は夢のままで…


俺は終わらせたくない。


俺は俺の夢を実現させるぞ。


良いバスキングポイントが無いか探しているとちょうどゲイリーと奥さんが歩いていたので声を掛けた。


ちょうどスーパーに行く所だったので、俺もスーパーに行って食料を調達した。

スイスのスーパーは閉まるのが早いし、曜日によって閉店時間が変わってしまうから注意しないと。


coopというスーパーがスイスで1番メジャーで安いのかな??

coopで食パンとビールを購入。

物価の高いスイスでは食費を抑えなくては。


買い物を済ませ、ゲイリーと路上ポイントへ向かった。


街の中はとても静かだ。


そして、何より目立つのは日本人の姿。

あちらこちらで日本語が聞こえてくる。

母国語の日本語がこんなにも異国の地で聞こえてくるなんて不思議なコトだ。


日本人の視線が気になりながらもいつも通り、ギターケースを広げ、ギターを構えた。

どこでどんな状況だろうと俺がやるコトはただ1つ。

自分の持ってるエネルギーを出し尽くして、人の心を動かす。


チューニングを終え、ゲイリーに合図をして演奏を始めた。


静かな街にギターの音とクラリネットの音が響き渡った。


通り過ぎるていく人の速度が落ちていくのが分かった。


俺の曲にゲイリーが合わせてくれるカタチでセッションをした。

有名な曲、マイナーな曲、それぞれにクラリネットの音が絡み付くように俺の声とギターの音に合わさった。



1時間程、セッションすると奥さんが少し手持ち無沙汰な様子になっていたのに気付いたゲイリーが声を掛けてくれた。

「ウチの奥さんはいつもあんな感じだから、気にしないでくれ。いつもこうやって音楽をやってるから、彼女は少し見飽きてしまったんだな!おぉーい、もう少しで終わらせるから、もう少しだけ待ってくれないか??」

奥さんが慣れた様子で手を振った。

「じゃあ、あと2曲だけやりましょう。こうやって出来て、とっても嬉しいですよ。」


有名な曲を2曲続けて。


「いやぁ、楽しかったよ。いつまで居るんだ??」

「う〜ん、明日には出ようかなと思ってます。」

「今日来たばっかだろ??」

「そうなんですけど、宿代が高くてねぇ…」

「そうか、決めるのはキミ自身だ。キミの背中には羽がある。ドコへだって行けるさ!アメリカにも来るんだろ??その時はまたセッションしよう!」

「楽しみにしてますよ!じゃあ、またお会いしましょう!」


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ギターケースの中にはコインがまばらに入っていた。

ココのポイントはあまり良くなさそうだな。

場所を変えてやろう。

さっき通ってきた所にバーがあって、細い路地になってたから良いかもしれないな。


細まった路地に入り、バーが何軒か軒を連ねる場所に移動した。


細い路地、静かな街…とても声が響く。

街の雰囲気を壊さないよう丁寧に唄おう。


ゆっくりと静かに、それでいて力強く気持ちを込めて唄った。


先程とは打って変わって、コインが入る。

入る。

入る。



向かいのバーの2階のテラス席からも聞いてくれる人が居る。

しかし、店員さんも入れ替わりでチラリと見ている。

こりゃ、止められるパターンかな…

と思っていたら、案の定店員さんが出てきた。


あちゃー…場所変えるから、怒らないでぇぇぇぇぇ……




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まじっすか。。


「ビールは好き??」

「え??いや、あの好きか嫌いかと言えば、愛してます!!」

「はい、コレ飲んで!」

ビール頂いちゃいました!


美味ぇぇぇぇぇぇ!!!!


生ビール飲みながらバスキングとか、どんだけ最高よ!


通りかかる人もみんな笑顔で声かけてくれるし、最高だね!


段々と日が沈み、気温が下がってきた頃に隣のバーの中から出て来た人に話しかけられた。

「俺たち、この後そこのバーで演奏するんだけど、良かったら2〜3曲やらないか??」

「え??イイんですか??」

「もちろんさ!好きな時に来てくれ!」


やったー!!久々にステージで演奏出来るぞ!

宿に併設されてるバーでも出来そうだし、今日は路上+2ステージか??

大忙しだな〜!ニョホ♪


22:00くらいまで路上を続け、寒さで手がかじかんできた所で切り上げた。

この寒さは旅の初期を思い出す。

何も分からず、右も左も違和感しか無い世界。

ただただ孤独に打ち拉がれ、自分自信と対話を続けていた日々。。


向かいのバーでビールのお礼を言って、トイレを貸してもらった。


「うるさくてスミマセン、それにビールまでありがとうございます!」

「いやいや、楽しい演奏をありがとう!ココで7年やってるけど、バスカーは初めて見たよ!スゴく良かった!」

「え、ホントですか??7年…てコトは、もしかしてバスキング禁止なんですかね…??」

「ん〜そういうコトだけど、気にするなよ!警察も来なかっただろ??」

「何とか…運が良かったってコトですかね。」

「ははは、まぁいいさ!グッドラック!!」


お店を出て、隣のバーへ向かった。

店内は立ち見の客が居る程、混んでいた。

先程、声をかけてくれた男性がステージで演奏していた。

様子を見ながら、先程のあがりでビールを1杯飲みながら出番を持った。


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「今日はゲストが居るんだ!日本から来たユキだ!さぁ、ステージに来て!」

ユキ…??俺??

うん、俺のコト手招きしてる。

「あ、どうも。日本から来たヤッケンです!突然のコトで緊張してますが、暖かい目で見守ってくれると嬉しいです!ちゅっす!」

アンプに繋がったギターを渡されて、観客の居るステージで唄い始めた。


自分の演奏に合わせて弾いてくれた。

いつもと違う空気がそこにはあった。


いつもの路上ならば、自分の声や演奏を気に入ってくれた人が足を止める。

しかし、今は目の前に居るのは2人の演奏を見に来たり、純粋にお酒を楽しもうと来ている人たちだけ。

そこに突然、見知らぬ日本人がやって来て演奏を始めるのだ。

観客の視線が刺さる。


日本の歌→自分の好きな曲→有名な曲と持っていこうとしたのだが、その場で有名な曲をやってくれというリクエストが来てしまったので、急遽頭の中で考えていた構成を変えるコトになってしまった。


まぁ、良い。そのくらい慣れっこさ。


多くの人が知っている、路上で良くリクエストされた曲を唄った。

ノッてくれる人。

静かに聞いてくれる人。

話に花を咲かせる人。

全く聞いてない人。


それぞれ反応はあったが、大半を自分の世界に引き込むコトが出来なかった。


こうなったら、とことんやるしか無い。


あとは自分の気持ち良いように唄うだけ。

それしか、今の俺には出来ない。


長年やってきたステージの感覚を思い出しながら、自分の気の赴くままに唄った。



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結果から言うと……惨敗。


拍手はあったし、自分の思うように唄うコトも出来た。

それでも魅せるというコトが出来なかった。


ステージを終えて話しかけてくれる人が居なかった。

こんなコトは初めてかもしれない…


自分の実力不足。

演奏以外の面においての実力不足。

演奏なんてものは上を見ればキリが無い。

ある程度まで行ってしまうと演奏力以外にも必要なモノというのがたくさんある。

それを味方に付けないと何をやっても埋もれてしまう。


まだまだだな…


修行が足りん。。


悔しいけれど、これが今の現実。


「ユキ、ありがとう!!これからも頑張って旅を続けてくれ!!」

「こちらこそ、ありがとう!!ヤッケンだけど!!」


そのままバーに居るのがいたたまれない気持ちになって、その場を後にした。


もう1つ、ステージがある。

そこでリベンジだ…!


俺の心はまだ折れてない!!

今日中にリベンジ出来る場所があるなんて最高の状況じゃないか…!

やってやるぞ…!!



ひんやりと冷たい風が剥き出しになった頬を撫でる。

寒さで耳が痛いなんて、いつぶりだろう。


急いで宿に向かった。


が、しかし既にバーは閉まっていた。


残念…リベンジの機会を失ってしまった。。


仕方ない。

明日も早いし、あがりだけ計算しよう。

暗くなったリビングでお金を数えた。


本日のあがりは169.2フラン,25.57€,2.5£(¥23,627)


……………!!!!



まさかの過去最高額更新!!


このツェルマットの何も無い静かな街で、まさか過去最高額を更新するなんて…!!


良かった…

俺のパフォーマンスは価値の無いコトじゃないんだ。

哀れみの気持ちからコインを入れてくれる人も居るだろうけど、それ以外に自分のパフォーマンスに何かを感じてくれる人が居るんだ。。

自分のやってるコトをもっと信じよう。

自分を信じてあげよう。

そうじゃないヤツに何が出来るっていうんだ。


ブレないで俺は俺の信じた道を進めば良いんだ。

To Be Continued →

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