Day512 結末は非情な現実。

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Day512 2015.4.4 ワイナポトシ3日目


深夜0:00。


けたたましいアラームの音が鳴り響くと、夢の世界から引き剥がされたオレたちは真っ暗で冷気が籠る部屋の中へ戻って来た。


満月と星の明かりが純白の雪を照らす。


どこまでも続く汚れなき雪。


ふわりと幾重にも重ねられたベールのような絨毯を踏みしめて、6,088mへ向けて出発した。


時刻は1:00。


アンザイレン、1本のロープがガイドのミゲルとアイちゃん、マサミちゃん、オレの身体を結びつける。


コレで運命共同体というワケか。


何があっても、同じ運命を辿る。


何としても頂上まで辿り着きたい。



ハイキャンプを出てから急激に傾斜が厳しくなり、一歩踏み出す毎に息が切れた。

下向きがちな視線を上に向けると満月と一列に並んだ光の玉が上方に向けて昇っていくのが見えた。


ふと、振り向くと後ろにも無数の灯りの固まりがあった。


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ラパスの街の灯りか。




数メートル進んでは止まり、また数メートル進んでは止まり…少しずつ頂上へ向かった。


ハァハァ…と息遣いだけが、暗い雪山に響く。


アイちゃんとマサミちゃんの足取りが重くなってきた。


他のグループが脇から縫うようにすり抜けていく。


どれくらい登ってきたのだろう。


「少しずつ、少しずつで良いから。」と励ます自分の声にも力が入らなくなってきているように感じた。


そんな折り、目の前に現れたのは天使では無かった。



ほぼ垂直に等しい11mの雪壁。



このタイミングでやって来たか…


少しずつ、ピッケルを打ち込み身体の重心を移動させ、てんとう虫のように上へ向かった。


ところが、壁の途中でアイちゃんの動きがピタリと止まってしまった。


雪の壁にへばりつくのだが、そこから上へ向かう事ができなくなってしまった。


後ろには、いくつものグループが待機し始めてしまった。


この細い道意外のルートの選択はなかなか厳しい。


自分たちが、この雪壁にある細い道を抜けるかどくかしなければ、他のグループは通る事が出来ない。


「アイちゃん…もう少し、もう少しだから。」


そう励ますが、上から降ってきたのは無情な宣告だった。


「もうこれ以上は無理だ。ハイキャンプへ戻ろう。いいな??」

「それは…」

「とにかく、1回下まで降りるぞ。道を開ける。」


半分の辺りまで登ってきた垂直にそそり立つ雪壁をまた下まで戻る。


雪山では頭で考えている以上に体力を消耗するので、少しでも体力を温存しておきたい。


そのような状況で、1度来た道を折り返すという事は2回分のエネルギーを使う事になる。


しかし、仕方ない選択か…


1度、雪壁から身体を剥がし、ピッケルを使わずとも立てる場所まで下った。


「アイ…もうこれ以上は無理だ。ハイキャンプまで下ろう。」

「まだ…まだ行ける。行きたい。」


ミゲルの判断は間違っていない。


体力の無い人間を上まで連れて行く…これがどれだけ危険な状況か…


山に登る…これは同時に下る事でもある。


むしろ、山登りで大事な事は下る事もしっかりと頭に入れておく事。


下山途中でのエネルギー切れ。


これが最も恐ろしい。


「まだ、いける…!」


ここでアイちゃんが下る事になれば、もちろんオレも下山確定。


それだけは避けたい。


自分が何とかカバーすれば…


ただ、それこそ自分の体力がどこまで保つか…


頂上を目指したい…その熱い思いが判断を鈍らせる。


「分かった…次、無理だと判断した時は下りるぞ。」

「分かりました。」

「行こう。」


再び、そり立つ雪の壁に向かった。


「アイちゃん、右足をオレのピッケルに乗せて。オレが足場を作るから。」


オレが何とか上まで連れて行く。


アイゼンをしっかりと雪の壁に噛ませて身体を固定し、アイちゃんの右足の下にピッケルを打ち込み、身体を押し上げた。


これを何度か繰り返した所で、ようやく雪の壁から脱出する事が出来た。


難関を乗り越えた安堵感が降り掛かり、雪の上に膝から崩れ落ちた。


ゼェゼェ…と乱れた呼吸が肺から暴れ出る。


自分の力が未知数だというのに、余計な事をしてしまったか…


想定以上に体力の消耗が激しい。


しかし、あそこでやらなければオレのワイナポトシアタックは終了していた。


乱れた息が整い切る前に再び上方へ向けて出発した。


満月の明かりのおかげでヘッドライトを付けなくても周りが良く見え、ザクッザクッとアイゼンが雪に噛み付く音だけが響いた。




ハイキャンプを出発して、どれだけの時間が過ぎたのだろう。

徐々に空の色が変わり始めた。



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刻々と変わり続ける空の色。


気付けば、雲海が眼下に広がった。


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雲の隙間から太陽の光が差し込み、雲海を照らした。


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一緒に出たユッコちゃん、カッコちゃんたちは既に頂上まで登るのを諦め、朝日を見て下る事にしたらしい。

コーヤくんとヒーちゃんたちはどの地点に居るのだろう…




目の前の2人、アイちゃんとマサミちゃんの体力も限界に近い所にあるのだろう。


ドコまで行こうか…言い換えれば、ドコでストップしようか…


そう何度も喉まで出掛かったが、『もうこの辺で…』と言われるのが怖くて聞けなかった。


「一旦、休憩しよう。」


ガイドのミゲルが足を止め、オレの代わりに質問を投げかけてくれた。


「さぁ、どこまで行く??」

「どうしようか…」

「やっけんは頂上まで行きたいんだよね??」

「そうだね…頂上に行くためにココに来たし…全財産のほとんどをぶち込んだからね…」

「じゃあ、やっぱり上までだよね…」

「マサミちゃんも誕生日登頂したいって言ってたもんね。」

「じゃあ、行こう。」

「ただ、もうこの時間だと頂上までは厳しいぞ。」


頂上までは厳しい……??


今、何と……


「ミゲル、何て??」

「ココまで来るのに時間がかかり過ぎた。頂上までは厳しいだろう。」


ウソだろ……


いつだって、そんな状況でもやって来た。乗り越えてきた。


まだ、そこまで行ってないのに、分かんないだろ……


「行ける所まで行きたい。行こう。」


登頂失敗……??


いや、まだ分からない…とりあえず、上へ…行ける所まで……



雪の上から腰を上げ、歩き出す前に振り返ると黄金色に染まった雲海が広がっていた。

金色の絨毯の上に居るのか…

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一歩一歩が重い……


5,800mを過ぎた辺りか…


一歩踏み出す毎に大きな呼吸が必要になってくる。


空は一段と明るさを増してきた。


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やはりペースが遅いのか…下山するグループが出てきた。


その中に1人の日本人が居て、聞きたくなかった言葉を口にした。


「登頂出来ませんでした。雪のコンディションが悪くて…」

「もう全然登れない感じなんですか??」

「他のグループも全然ダメみたいで…」


ヘヴィな状況は、先ほどより色を濃くしてきた。


それでも、まだ100%不可能というワケでは無い。


自分の目で確かめるまでは…



無言で少しずつ少しずつ登っていった。


頂上はもう見えている。


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「もう、この辺で良いだろう。」

「頂上までは??」

「今日は雪のコンディションが悪くてダメだ。もう日が出てしまった。雪が解けて立つのも厳しいだろう。」

「でも、まだ上に人が居る!」

「彼らはもう下りてきている。」

「あそこまでは??」

「行くのも厳しい時間になってきた。2人の体力ももう無い。」

「分かった…他のガイド、そこに居る人の内の誰かにオレだけでも上に連れて行ってくれるように頼めない!?」

「それは出来ない。今回はココでお終いだ。6,000mまで登ったんだ。上出来だよ。」


ウソだろ…


体力なら、まだある。


まだ行ける…


帰りに分も体力はまだある…


しかし、天候と雪のコンディション…自然のどうする事も出来ない力…


どれだけ悔しくても、抗う事の出来ない力…


いつだって、困難には乗り越えてこられた。


そこに突きつけられた『不可能』という現実。



雪の上に力なく倒れ込んだ。



頂上まで登り切る事の出来なかった悔しさと6,000mまで登ってこられた少しの達成感と不可能な事もあるという突きつけられた現実と目の前に広がる美しい景色が頭と心の中で混濁して、涙になって頬を伝った。


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Happy Birthday マサミちゃん32歳!

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「さぁ、帰ろう。」


他のグループは既に下山してハイキャンプに向かっているのだろう。


得る事が出来なかった達成感の分、心に穴が空いているような気分で下山を始めた。


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帰りの11mの壁も難航した。


身体が滑り、ミゲルが上から吊るすような形で下った。


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広大な雪原にぽつりぽつりと落とされた点は列を成し、力なく少しずつ少しずつ落ちていった。


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9:30、ハイキャンプ着。


無言で岩の上に腰を下ろした。


誰も言葉を発さない。


発する事が出来ないと言った方が正しいのか。


全てのエネルギーを使い果たしたのだろう。



登頂する事は出来なかったが、やり切った…


その安堵感は、次第にグルグルと身体の中を駆け巡って吐き気に変わってしまった。


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「さぁ、10:00に出発するぞ!荷物まとめろ!!」

「今、着いた所なのに…」

「本気かよ…」



疲れ切った身体のまま、寝袋や荷物をまとめてベースキャンプへ向かった。


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「ヤッケン、今回は残念だったな。天候ばかりは仕方ない。」

「うん、そうだね。」

「お前は良い登山家だ。明後日サハマ山に行くけど一緒に行くか??」

「登山家だなんて…サハマって6,542mの??」

「そうだ、お前なら行けるぞ。」

「考えようかな…」


サハマ山かぁ…


山登りはしばらく…てか、もう良いかな…


エベレスト以外。


あの山だけは特別だもんな、やっぱ。


荷物を降ろし、自分たちの荷物をまとめてバンに乗り込んだ。


ラパスに向かうバンの車窓からはワイナポトシが見えた。


いつまでも山のてっぺんから視線を離す事が出来なかった。


To Be Continued →

入山料…20ボリ



この写真何…??奇跡の1枚??笑
頭から何か出てるよ!!笑

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